フコイダン飲料はがん治療に貢献できるか?

   2015/02/08

海と海藻
フコイダン飲料が一部のがん患者や家族の間で話題になっている。従来のキノコ系「抗がん健康商品」は、腸管免疫を刺激してがんを治すというふれこみであるが、フコイダンはがん細胞をアポトーシスさせるという異なる仕組みのため、その目新しさもあって注目を集めているわけだ。さて、フコイダン飲料はがん治療に貢献できるのだろうか。

絶対的な決め手のないがん治療に対して、西洋医療と代替医療を相補・統合したとする「統合医療」がしばしば取り沙汰されることがある。

『末期ガン克服への挑戦―あきらめない医療 救える命を救うため 統合医療による快復症例の解明』(白畑実隆著、双葉社)という書籍もそのひとつである。

同書は、全5章で「低分子フコイダン」を使った「フコイダン療法」をとりあげ、1~2章、4~5章では白畑実隆氏(九州大学大学院教授)が作用や試験管・動物実験等の試験結果を説明。

第3章では、12名の現役医師が実際にそれを治療に採り入れて奏功したとする24症例を掲載している。

あらかじめ述べておくと、これは「統合医療と健康を考える会」という、フコイダン業者が作った健康食品宣伝団体のバックアップで行われている活動の記録である。

同会では、もずくを酵素分解した「低分子フコイダン入りモズク飲料」(商品名:パワーフコイダン=以下フコイダン飲料と記す)を推奨している。

当然、フコイダン業者はその商品を販売している。同書がフコイダン飲料販促活動を目的としていることは否定できない。

もちろん、それだけで同書を即、かつて書店の1コーナーに溢れていたバイブル本と同じレベルだと決めつけるつもりはない。業者に対する評価とその健康食品の効果は別問題だからだ。

逮捕者の出た史輝出版のバイブル本は、何の根拠もないところから、ライターが図書館で各がんの症状を勉強しながら作文した体験談が100%だった。

しかし、同書は現役医師が実名で自らの経験を紹介している。

たとえば、その中の一人である大阪・吉田医院の吉田年宏医師は、筆者も話を聞いたことがあるが、書籍に書かれている吉田年宏氏の話は、一貫した吉田年宏氏の持論である。

吉田年宏氏は、「西洋医学に勝る民間療法は存在しない」という前提ながらも、フコイダン飲料が西洋医学(通常療法)の治療効果を上げたり、末期がん患者が再び西洋医学的治療に戻れる状態になったりする可能性があるのならという目論見で、フコイダン飲料を使うことがあるとしている。

5年前からは、すでに通常治療でサジを投げられた人も含め、がん患者やその家族に対してフコイダン飲料無料相談会を大阪や東京で行ってきた。

その活動を通して、患者が治療とともにフコイダン飲料を飲んでどうなったか、という「症例」を数百例経験している。

他の医師も、大なり小なりそうした「症例」があり、同書においてその中の代表的なひとつかふたつを例示しながら、体験的に感じられた「フコイダン療法」の奏功ぶりについて報告をしているのだろう。

そういう例があることで、たとえばタイトルのような「末期がん」の患者が希望をもつならそれは悪いことだとは思わない。

フコイダン飲料のエビデンスは確立していない

ただし、ここからが大事なのだが、問題はその「24症例」をもって、フコイダン飲料のエビデンスが確立した訳ではない、ということである。

かりに「24症例」が事実であったとしても、フコイダン飲料ではなく、同時に行っていた抗がん剤治療や放射線治療が奏功したのかもしれない。

「自然退縮」という言葉があるが、進行の遅い前立腺がんなどにはそれがありうる。フコイダン飲料を飲もうが飲むまいが自然退縮するものであったものでも、その間にフコイダン飲料を「処方」していれば、フコイダン飲料が奏功したことになってしまうのだ。

絶対にフコイダン飲料はがんに関与しない、と断言はしない。これだけ「症例」があり医師が自信を持っているのなら、きちんと調べたら面白いと筆者は思う。

しかし、少なくとも同書には、このがんのこのステージではフコイダン飲料をこのぐらい飲めばこのくらい快復する、という「方程式」が示されているわけではない。

たんに、フコイダン飲料を飲んだ人に、それがどう絡んでいるのかわからないけれどとにかく結果として奏功したように見える例を経験したよ、という報告を行っているに過ぎないのである。

その点は読者も冷徹に認識すべきだ。

それでも、こういう人はいるだろう。

「作用機序や因果関係はどうでもいい。『たまたま』でもいい。とにかくフコイダン飲料を飲んだら、結果として快復するのなら、試してみる価値はあるのではないか」

その立場にたって考えれば頷きたくなる。何でもやってみるのはいいことだ、といいたいところだ。しかし、残念ながらそうともいいきれないのだ。

「24症例」には主に内臓の臓器癌とその転移ばかりで、白血病や悪性リンパ腫などの血液系統の「がん」などは含まれない。つまり、同書の12医師ですら、臓器癌と一般的な転移以外のがんでフコイダン飲料に適応があるとは述べていない。

たとえば、血液そのものに問題がある白血病などの場合、免疫力や抗酸化力のある健康食品によって、逆に腫瘍細胞が元気になって暴走するから逆効果だと指摘する人もいる。

健康食品にそれほどの力があるぐらいなら、腫瘍細胞だって抑えられるだろうから筆者はその説自体には懐疑的である。

ただ、健康食品にビタミンなど化学物質が含まれている場合はあるから、病院側が投与する薬に対して何らかの作用はありうる。投与される薬との相互作用まで把握できている患者はいないだろうし、また業者もそこまでわかっていて売っているわけではない。

つまり、病気によっては、フコイダン飲料は治療の妨げになる場合があるかもしれないということだ。

が、もし患者がそれを知らずに飲んでも、それは飲んだ者が悪いのであり、フコイダン飲料の業者が責任をとってくれるわけではない。

こうした健康食品の利用は自己責任といわれるが、その意味をあまり軽く考えてはならないと思う。

また、他の健康食品同様、このフコイダン飲料についても、食品だから副作用がない、いくら口にしても平気、などと宣伝している業者がいる。

しかし、この世のあらゆる食べ物に、いくら食べても大丈夫なものなど存在しない。もずくそのものに、食べ過ぎては蓄積する有害な物質がないとも限らない。また、フコイダン飲料に含まれる「カラメル色素」は液体用なので、カラメル色素数種の中でもっとも害があると思われるものが使われている。安息香酸という保存料も含まれている。

それらが含まれる量は食品衛生法の基準内ではある。しかし、食費添加物にはわかっていない部分もある。ひとつひとつは安全な範囲であっても、その蓄積は少なく、複合的作用の可能性も少なくした方がいい。無用で過剰な摂取は避けるためにも、フコイダン飲料を「いくら飲んでも大丈夫」と宣伝するのは無責任ではないか。

同書には、そのへんについての注記も欲しかったが、販売促進出版物の限界か、そのようなくだりはなかった。やはりここの判断も患者側に「自己責任」を負わせているのである。

ちなみに、フコイダン飲料は保健機能食品(栄養機能食品)である。栄養補給としてなら否定するものではないと思うが、それにしてももう少し安くならないものか。栄養剤にしては高い。

誤解のないように書いておくと、筆者はフコイダン療法を行う人々に「そんなもの、やめなさい」と言いたいわけではない。

少なくとも栄養機能食品としての価値まで否定できる根拠はない。また、健康食品は否定さえしていれば正義だと思いあがっているわけでもない。

むしろ、同書の「奏功報告」が客観性再現性を持ったものであって欲しいと願っている。だからこそ、その点で厳しい目を向けているのだ。

末期ガン克服への挑戦―あきらめない医療 救える命を救うため 統合医療による快復症例の解明

末期ガン克服への挑戦―あきらめない医療 救える命を救うため 統合医療による快復症例の解明

  • 作者: 白畑 實隆
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本

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