「いずみの会」の「驚異の生存率」を調べる

   2015/02/08

いずみの会
「いずみの会」という担がん者の会がある。スキルス胃がんから生還したという中山武氏が主催している。中山武氏は、そのいずみの会の会員の生存率が高いと宣伝している。そのことを数字付きで表明しているのが『論より証拠のガン克服術』(草思社)という書籍だ。今回はこの書籍についてスケプティクス(懐疑的)な立場から述べてみたい。

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「450名を超えるガン患者会員がこうして元気に生きている!」会員の「生存率」が97%である(序章)とするガン患者の会「いずみの会」(NPO法人)は、メディアでもしばしば取り上げられる。

その会長が、会の紹介とともに、自らのガン患者観を述べたの書籍がタイトルの書である。

絶対的といえる方法がないガン治療を前にして、その進行具合にかかわらずガン患者のすべては不安や絶望感を抱いている。

いや、かりに現在ガンでなくとも、3人に1人が、がんで亡くなるとされる現代、全国民的にとって「ガン」は不可避な課題である。

すべてのガンのすべてのステージを通して、60%弱といわれる5年生存率(ガンは5年で一区切りとされる)と比して、同会の97%という「生存率」はたしかに高い。

数字だけを見ればメディアが取り上げたくなるのはよくわかる。

著者の中山武氏自身、かつては予後の悪いスキルス胃ガンにかかった。それでも、3万人に1人の確率といわれる生存者に入れたという(第1章)。会は、この中山氏の奇跡にあやかりたいガン患者が多数入会している。

その中山武氏が強調するのは、「心の改善」「食事の改善」「運動」の3つである(第2章~第5章)。

これ自体は、1997年に世界ガン研究基金・全米ガン研究財団が発表した「ガン予防14ヶ条」と基本的には重なるものである。

同書では、砂糖や動物性たんぱく質など、徹底して排除することを推奨している。

そこに科学的根拠は示されていないが、摂りすぎないことは現在の栄養学や医学などでも否定すべきことではないのでとりあえずおこう。

ただ、問題なのは「西洋医学でガンは治らない」(第6章)「ガンは自分で治す」(第7章)など、民間療法を推奨する人々が必ず述べる論調だ。

自分の気の持ち方は大切であるし、現在の西洋医学も絶対ではない。

だからといって、通常治療を後景に退けるような表現は、読む者に治療の意欲を失わせ、その機会を逃すことにならないとも限らない。

たとえば、中山武氏は、「素人でもガンは治せる」と断言する。

しかし、こういうやり方ならこれだけの人が治ったという具体的なデータを示しているわけではない。

結果としてスキルス胃ガンだった自分が生きている、という体験談だけで、客観的な治療成績(エビデンス)に基づいた話は何一つないのだ。

もっともそれが示せたら、おそらく中山武氏は、今回受賞した日本人科学者4名よりもはやくノーベル賞を取れただろう。

にもかかわらず、中山武氏は他の民間療法推奨者のように抗ガン剤を否定してしまう。

確かに、認可を受けている抗がん剤は無害ではない。はっきりいえば、抗がん剤は薬というよりも毒である。当然、何らかの副作用もあるし、必ず効果があるとも断言できない。薬剤耐性のような限界もある。

しかし、医学は客観性・再現性ある試験の中から、患者にとって最良の選択をして抗がん剤を使っている。

それをきちんと見ることもなく、リスクだけを一面的に強調し、成果の不確かな方法を自信満々に断言するのは、患者にとって正しい選択の機会を与えたものとはならない。

鵜呑みにできない「驚異の生存率」

何より、同会が売りとしている冒頭の「驚異の生存率」も、そのまま鵜呑みにはできない。

会員の「生存率」が97%である(序章)というが、誤解してはならないのは、いずみの会に入れば、ガン患者の97%が生存できるという意味ではない。

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そう思っている人は、次の「数字のからくり」を知って欲しい。

同書に書かれている時点で、いずみの会は会員数471名、その中で亡くなった人が13名。だから、「生存率」は97.2%と同書は宣伝する。

しかし、いずみの会では、入会後半年以内に亡くなった会員は、会員としてカウントしていない。そのような「幻の会員」が24名いたと告白している。

要するに、本当の末期は初めから入れない会なのである。そこをまず見ておく必要がある。

それでも、その「24名」を加えると92.5%。それを凄い数字だと思われるかもしれないが、同書がいう「生存率」というのは、通常使われる「がん患者が×年後に生存しているかどうか」という意味ではなく、たんにその年に生きている人、という意味でしかない。

同書は、次のようにデータを公開している。「犠牲者」というのは、亡くなった人である。

1997年度、実質患者166名、犠牲者 5名、生存率97.0%
1998年度、実質患者174名、犠牲者 7名、生存率95.9%
1999年度、実質患者187名、犠牲者 7名、生存率96.3%
2000年度、実質患者266名、犠牲者14名、生存率94.7%
2001年度、実質患者258名、犠牲者25名、生存率90.3%
2002年度、実質患者272名、犠牲者17名、生存率93.8%

がんは「5年生存率」で見る。ということは、本来ならたとえば1997年に入会した「166名」が、がんを発症して5年後に何パーセントが生存しているのか、ということを見なければならない。

1997年に発症したとして、その後の同会の5年間の「犠牲者」は75名。それがすべて97年入会組だとすると、本来の意味での(5年)生存率は54.8%でしかない。

末期を排除してこの数字では、決していい数字ではないだろう。

もし、「75名」が97年組以外も含まれるとすれば、その人々はもっと悲惨だ。つまり、いずみの会に入会しても5年持たなかった人がいるということなのだから。

がんは即死の病気ではない。発病後、4年目に亡くなった会員がいたとして、その人は3年間は同会でいう「生存率」の上昇に貢献する。

その間、新しい(つまり余命のある)がん患者も入会して会員数自体が増えているから、単年で見れば、会の高い「生存率」の維持は、中山武氏がいうほどの「快挙」とは思えない。

そもそも、がん患者の生存率はガンのステージを見なければ意味はない。どのガンのどのステージで何%という数字でなければならない。がんの部位とステージによって、予後は全く違う。

同書の巻末には、会員の病歴リストが出ているが、103人中、半分近い50人がステージ1、末期のステージ4はたった5人、再発転移も7人しかいない。

つまり、もともと通常治療である程度の割合で生存できる人たちが会員なのである。

そう見ると、「生存率」が高くても、それがそのままいずみの会の功績とはいえないのではないだろうか。

少なくとも、同会の会員が、一般のがん患者に比べて有意に生存率が高いかどうかは、同書が示すデータでは証明はできない。

感情的な反論の前に書いておくが、筆者は、個人的にがん患者にとってこうした会は必要だと思っている。

がん患者が励まし合える機会を得られる会ならそれだけで存在意義はある。それだけに、突っ込みどころを残した数字で会を宣伝しても、それは長い目で見れば会のためにも会員のためにもならないと筆者は残念に思うのだ。

コメント

高田たみ代 :

はじめまして。
生存率の件については,いろいろ問題もあるかと思います。私は5年ほど前に中山さんにご縁を頂き、定期勉強会に参加させていただき懇親会にも出させていただきました。
当時病院に勤務していたので、この懇親会での皆さんの明るさにびっくりしました。
それ以降興味のある講演会の時だけ参加させていただいています。
10月には講師としてお招きいただいていますので、会員の皆様のさらなる健康を願ってお話をさせていただきたいと思っています。

人生は選択肢だと思っています。自分の大切なたった1つの体ですから、ご縁がある選択肢の中で自分が納得出来るものに出会えることが幸せかなと思います。
2010年8月30日 13:52

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