発展途上にある現代の疫学調査

   2015/02/28

お茶の疫学調査
疫学調査は現代においてもまだまだ発展途上にある、というのが今回の話である。何をエラソーにと思われるかもしれないが、発表される疫学調査には、突っ込みどころがあるのだから仕方ない。変と思ったことを変だと述べるのは言論の自由である。もとより、スケプティクスな立場を貫くなら、それを躊躇してはならないのだ。

というわけで本題に入ると、「健康食品」の安全性・有効性情報を検証する「健康食品情報プロジェクト」(独立行政法人 国立健康・栄養研究所 情報センター)のデータベースが更新された。

それによると、ビタミンB・C・D・E、マグネシウム、カルシウム、アセチル-L-カルニチン、コエンザイムQ10、茶などサプリメントの成分についての疫学調査結果(有効性や危険性等)が反映されている。

Web掲示板でも健康食品についての議論はよく行われている。しかし、その中身は、主に健康食品の業者による、科学的根拠のないバラ色の宣伝文句をばらまく「肯定派」と、一方ではとにかく頭から否定していれば科学的でかつ正義なのだと勘違いしているある種のカルトな「否定派」による「論争」に毎度終始し、書き込み数のわりには学ぶべきものはほとんどない。

それは、いずれにしてもスケプティクスな立場とはいえない。

こうしたものの「効果」の真偽は、科学的根拠があるかどうかが全てであり、その真偽がどうあれそれを利用するかどうかは各自の価値観に委ねられるべきである。

ところが「肯定派」は前者が欠けており、「否定派」は後者を蹂躙して恥じない乱暴な書き込みが目立つ。

どちらにも重大な欠点があるから興醒めなのだ。

そんな中で、粛々と科学的根拠を整理して公開している同センターのデータベースは、客観的な情報を元に、他人の強引な「啓蒙」なしに自分で判断できる有用な情報庫であると思う。

だが、ときとして、その情報の中身に疑問を抱くことがないわけではない。

血中濃度が一切測定されていない疫学調査スケプティクス!

たとえば、今回のようなビタミンの有効性を調べる試験である。更新されたデータベースによると、「男性14,641名(64.3±9.2歳、試験群10,988名)を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、ビタミンEを1日おきに400IU、ビタミンCを毎日500mg、平均8年間、単独もしくは併用摂取したところ、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡)のリスクや総死亡率に効果は認められず、ビタミンE摂取群では出血性脳卒中のリスク増加がみられたという報告がある」となっている。

「二重盲検無作為化プラセボ比較試験」は、科学的根拠として認められる試験方法である。

しかし、この試験では「ビタミンEを1日おきに400IU、ビタミンCを毎日500mg、平均8年間、単独もしくは併用摂取した」と経口レベルでの定量性しか明らかではない。

つまり、その摂取したビタミンが、「男性14,641名」の体内にどれくらい吸収され、血中濃度がどの程度になったかということは一切測定されていない。これでは科学的とはいえないだろう。

このての疫学調査はよくある。たとえば、「お茶を○杯×年間飲んだ」などという調査によってお茶の疾病に対する有効性を調べるものがそうだ。

一口に「お茶」といったって、濃度や成分が違えば体内の吸収具合も変わってくる。血中のカテキンやビタミンCなどの濃度を調べず、「○杯」だけで結論を出すのはナンセンスだ。

食べ物研究というのは、理系言葉でいうと「複雑系」といわれる。同じ物を同じだけ食べても、消化・吸収力や交絡因子(その試験に影響を与える要素)などによって結果が変わってくる。

その食材の成分について体内での影響を調べるのなら、「どれだけ食べたか(飲んだか)」を見るだけでは不十分なのである。

なぜ、素人の私でも気付くようなお粗末な疫学研究が行われているのか。おそらくは、ビタミンやミネラルなどといった「栄養成分の脇役」に対する健康増進の評価が低いということがひとつにはあると思う。

ありていにいえば、そんなものは「毒にも薬にもならない」という意識があるのではないか。もしくは、デカルト以来の要素還元主義で発展してきた現代の科学(者)は、そもそも複雑系への取り組みが苦手なのかもしれない。

しかし、21世紀の科学は、環境問題やこうした食と健康の問題など複雑系のテーマにみちている。自然科学が、古典的な要素還元主義を卒業して、より裾野を広げた視点から発展していただくことを私は願ってやまない。

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