「マイナスイオン」は「終焉」……してないだろう

   2015/03/03

マイナスイオン
マイナスイオンといえば、疑似科学批判の象徴ともいえるものだ。発端は、健康によいものとして、2001年~2002年頃をピークに、「マイナスイオン」なる言葉がマスコミで流行したことにある。捏造が叩かれて打ち切りになった健康情報番組『発掘!あるある大辞典』が火付け役になったといわれている。

ひと頃は、新聞・雑誌・テレビなどで何度もその言葉が取り上げられ、家電製品のドライヤーや空気清浄機、エアコン、冷蔵庫、さらに装身具や化粧水、寝具、入浴剤に至るまで、各メーカーは「マイナスイオンを発生する」ことをセールスポイントにした販売を積極的に行った。

だが、マイナスイオンというのはそれ自体が「和製英語」であるように、強引に作られたイメージが否めない。

なぜなら、学術的に認知されているわけではなく、定義が曖昧だからだ。物体が帯びている静電気の量(電荷)について、マイナスの電荷を帯びた水の微粒子を指すらしいのだが、それが健康にどのような効果をもたらすのか、という定量的なデータが科学的な手続きのもとに報告されたことはない。

スケプティクスの立場から見ると、怪しい疑似科学の匂いがする。

そのため、科学者からは批判と嘲笑を向けられ、消費者からは効果を確認できないと消費者団体に苦情や相談も相次いだ。

国民生活センターの、全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に寄せられるマイナスイオンに関連する相談は、2002年度で714件(前年度324件)にのぼっている。

2006年11月には、東京都生活文化局が、「マイナスイオンをうたった商品」のインターネット広告について、不当景品類及び不当表示防止法の観点から調査を実施。表示に関する科学的視点からの検証を行い、「マイナスイオンの発生量に関する表示は、当該商品若しくは当該商品の使用実態に即したものではなく、客観的に実証されたものとは認められなかった」と厳しく断定している。

こうしたことから、最近では一時期のような「ブーム」は収束したように思われた。

では、あれほど派手に売っていた「マイナスイオン」製品はどうなったのだろうか。

私は気になってメーカーに尋ねてみたが、意外な回答を得ることになった。

マイナスイオン製品はむしろ増えていた!

ダイキン工業など、新製品ラインナップに「マイナスイオン」機器をもたない一部を除くと、大手メーカーではマイナスイオン機器はむしろ増産されている傾向にある。少なくとも製造をやめていないのだ。

たとえば、「主製品はヘアードライヤー」という業界ナンバーワンの日立製作所はこう教えてくれた。

「髪の奥まで水分を浸透させ、パサつきを抑えます。現在7機種を販売しており、製造台数は増加傾向です。逆にマイナスイオン機能を搭載していないヘアードライヤーは機種数が減少傾向で、製造台数も機種数の減少により多少減っています」(お客様相談センター)

ヘアードライヤー以外ではエアコンや掃除機、空気清浄機などでも、「マイナスイオン」機能を付加した商品を発売しているという。

同様に富士通ゼネラルでは、エアコン(国内向け)について、「昨年から比較しますと、9機種増やしています」(広報室)という。

同社は前年、全19機種中10機種が「マイナスイオン」機器だった。「9機種増やし」たということは、要するに今年度モデルは販売している全機種が「マイナスイオン」機器になってしまったのだ。

「空気清浄機・エアコン・加湿器・除湿機・セラミックファンヒーター・掃除機・冷蔵庫・生ゴミ処理機・イオンコンディショナー」など、除菌イオン機能を搭載した広範な製品に「マイナスイオン」機能を搭載していると説明してくれたのはシャープである。

しかし、科学的に根拠の曖昧なもので健康効果を売り物にするのは、薬事法違反にあたる。

その点はどう考えているのか。それが批判の的になったからこそ、東京都の調査と見解が発表されたのではないのか。

それに対してA社では、「マイナスイオン効果そのものを謳っている訳ではないので、『効果のある』製品とは少々意味が違います」と反駁する。

また、B社では「マイナスイオンで健康になる」とは言わず、「マイナスイオン効果が包含」と表現している。

「抗がん」健康食品とマイナスイオン製品の共通点

これではまるで「抗がん」健康食品と同じである。

「このアガリクスでがんが治る」と宣伝したら薬事法違反であるが、「アガリクスのグルカンに腫瘍抑制作用がある」、ないしは「この商品にはグルカン含有」という宣伝はセーフである。

上記の「マイナスイオン」製品会社の言い分は、そうした違反逃れの「裏技」的宣伝とさしてかわらないような気がするのだが、どうだろう。

その製品自体に効果を謳ってなくても、科学的根拠の曖昧なもののイメージに影響される消費者の購買欲をあてこんだ宣伝はモラルとしていかがなものかと思うし、「効果が包含」に至っては、その「効果」を売り物としているとしか読めない。

効果を期待しないものが「包含」していることを宣伝しても意味がないのだから。

昨今、健康食品業者は摘発され刑事罰まで受ける事件があったが、大企業メーカーのこうした「危うさ」も、きちんと監視や批判の眼を向けるべきではないだろうか。

健康食品業者を庇うわけではないが、弱小業者は叩いても、日本の産業に影響を与えるメーカーは大目に見る、というのは法の下の平等にももとる。

マイナスイオンの批判でお馴染みの安井至氏などは、「マイナスイオンの終焉」というタイトルのブログを2年前に発表している。

しかし、私の聞き取りを見ればわかるように、実は今も「終焉」などしてはいないのである。

もっとも、大企業からの援助金なしには研究ができない科学者、同様に大企業の広告収入で成り立っている大マスコミなどは、そうした批判活動に対しては微妙な立場であるのかもしれない。

もちろん、これは一般論で、安井至氏がそうだというわけではない。

ただ少なくとも安井至氏の批判が、「マイナスイオンの科学的真偽」だけで完結し、社会の中の疑似科学を解決するというスタンスでないことだけは確かだ。

いずれにしても、企業や権力のヒモつきではない「普通の人」が、日常で気付いた小さなことを、こうしたブログで存分に批判精神と探求心を発揮した投稿をすべきだ。

それがきっかけとなってより大きな真実に進んだり、世の中を動かしたりする原動力になるかもしれない。

社会は、独自の視点とより真実に肉薄した記事を待っていると思う。

「マイナスイオン」に限らず、「ブーム」が終わったものに対しても、大衆の目線からの監視の眼とスケプティクスな精神を持ち続けたいものである。

「マイナスイオン」については、『健康情報・本当の話』(楽工社)に詳しい。

健康情報・本当の話

健康情報・本当の話

  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本

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