『医療崩壊のウソとホント』(本田宏著、PHP研究所)

   2015/05/02

医療崩壊のウソとホント

『医療崩壊のウソとホント』(本田宏著、PHP研究所)という書籍を読んだ。筆者も、『生命保険のウソ・ホント』(九天社)『血液型性格判断のウソ・ホント』(かもがわ出版)という「ウソ」「ホント」がタイトルに付く書籍を上梓したことがあるが、書籍の主題は批判や疑問で、それらを明らかにすることで「ホント」のことが見えてくるという構成だった。

『医療崩壊のウソとホント』も、医療現場の悲鳴を紹介しながら、医療に関する疑問や誤解について平易に解説されている好書だ。

人間や組織に、安易にレッテルを貼る人間は、よく「右」「左」という峻別をしたがる。

そのデンで言うと、「右」であるPHP研究所が、土光臨調を批判している同書を出したことが不思議に思われるらしい。

だが、この見方に筆者は賛成しない。

本田宏氏にしろ誰にしろ、彼らは素材である。

それがどの方面から光を当てることで、どういう見え方をするかを見ることも真実への肉薄の一手段である。

「右」の出版者から出したら個性が消える「左」の本があったとしても、それは出した出版者に問題があるのではなく、素材がしょせんその程度のモノなのである。

本物なら、立場が違うところから光を当てることで、よりいっそうの魅力を増すということもあるのではないか。

話は離れるが、菊池誠氏はブログで、安斎育郎氏が陰謀論者と同じステージに立ったことについて不満を表明している。

これも、同じ理由で硬直した発想だと筆者は思う。

もっとも、大槻義彦氏がトークバトル番組で演じてきたことについては、別途批判すべき点がある。

話を戻す。

『医療崩壊のウソとホント』は医療関連の本だから、医療について勉強になったのは当たり前の話だが、筆者が同書を評価したいのは、その批判が決して、医療の世界で完結した、自分たちの世界の都合だけでモノを言っているわけではないことである。

世の中で矛盾や不満を抱えているのは、医療現場だけではない。

どんな分野だって悲鳴ぐらい上げているのに、医療だけが苦労しているかのような夜郎自大の主張をしていると、たとえ述べている事例が事実であっても、筆者は素直に聞きたくなくなる。

仕事に、生活にさまざまな苦労を背負っている他の人々も、同じような心境になるだろう。

この書籍は、そんな自分だけの了見でモノを言ってないところが評価できる。

本田宏氏の視点は何処が違うのか

たとえば、ジャパンスケプティクスの松田卓也氏は、同会の機関紙(NEWSLETTER No.37 No.39)で、ある新聞記事で社会現象に対する解釈が合理的でないことを指摘した際、自身が「理科系の人間」であることを強調しながら、「(理系にはあるが、マスコミには)物事に対する、時間的に長期的な視野、空間的に広い視野、つまり巨視的な視野が必要だということだ。マスコミの論調には往々にしてそれが欠けている」との見解を示した。

松田卓也氏はしばしばサイトや機関誌でマスコミ批判を行うが、いつも根拠は「事象に対する定量的視点が欠けている」ことにある。

つまり、マスコミの文系体質がケシカラン、理系ならそんなヘマはしないといっているのである。

記事が間違っていれば、批判をするのはいい。しかし、その非科学記事を書いた記者が理系でないという証拠などどこにもないし、理科系の人間ならつねに「事象に対する定量的視点が欠けてい」ないとも言い切れまい。

何よりも、なぜそのような記事が出てくるのか、新聞マスコミの構造をきちんと理解した上で批判を行わなければ、それは改善の道筋を掃き清めたことにはならない。

一方、本田宏氏は昨今マスコミで取り沙汰される「患者たらい回し」報道についてマスコミを批判するが、松田卓也氏のように、自らの立場をモデルとする立場はとっていないし、「マスコミは医学・医療に無知だから」というような責め方もしていない。

一面的な報道の背景に記者クラブ依存という問題があることを指摘し、さらに医療現場で働く者の意識も様々であることを正直に告白している。

本田宏氏は医療従事者であり、マスコミ人ではない。

それでも批判をするときには、「医療現場」だけで話を完結せず、そのとりまく構造全体をありのまま見ながら、自分の世界も聖域化せずに率直に意見する誠実さをもっているのだ。

どちらが、社会の現実に沿った合理的で公益性ある批判か、その評価は改めて述べるまでもないだろう。

スケプティクスは、ある事象の科学的・合理的解明さえすればいいという「訓詁学」ではなく、それがいかなる仕組みの中に営まれているか、という社会全体からの理解もきちんと行われるべきではないだろうか。

補足しておくと、筆者がここでもっとも言いたいのは、松田卓也氏個人の見解そのものについてではない。

それに異論反論が全くなく、胸にストンと落としているカルトな「否定派」たちのありようである。

おかしなところがあれば、もっと率直に、闊達に自分の考えを「偉い人」にぶつける意欲と勇気をもったらどうか、という話である。

スケプティクスというのは、そういうことであると筆者は考える。

それができないあなた方は、ただのカルトでしかない。筆者に言わせれば、オカルト村の「否定派」なんぞ、肯定派よりも始末の悪いカルトばかりだ。

「医療崩壊」のウソとホント

「医療崩壊」のウソとホント

  • 作者: 本田 宏
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2009/09/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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