『物理学と神』池内了氏が日本科学者会議の軍事傾斜に警鐘乱打

 

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『物理学と神』(集英社)という書籍がある。著者は池内了氏。日本を代表する宇宙物理学者である。その池内了氏が、大学や研究機関が国と連携し、軍事目的の科学研究を行う「軍学共同」に反対するシンポジウムで行った基調講演が話題になっている。今回もスケプティクス(懐疑的)な立場から見ていこう。

日本学術会議は、これまで掲げていた軍事研究の否定を見直すことを表明している。

一般の研究予算が絞られる一方で、防衛省が6億円を計上して軍事研究を公募している現状から、カネに負けたのだろう。

池内了氏は、第2次安倍政権下で軍学共同が急速に進展したと指摘。防衛省が昨年始めた「安全保障技術研究推進制度」に関しては「民生分野の活用は幻想にすぎない。大学が国の下請けとなり、秘密研究に直結する」と批判している。

さらに池内了氏は、「研究者は国になびいてはならないという社会的責任がある。大学組織としては軍事研究に関する行動・倫理規範などを整備する必要がある」と訴えたという。

池内了氏は、自らが日本学術会議会員であったにもかかわらず、物理学者としてふんぞり返るのではなく、物理学者・科学者がいかに非力な存在であるかを常日頃から述べ、彼らの弱点や誤りを率直に指摘する、すなわち自分の立場(科学者)を相対化する稀有な科学者である。

それだけに、信用できる科学者であると思う。

その池内了氏ならではの物理学史が、『物理学と神』である。

もちろん『物理学と神』は、物理学を飾った言葉で宣伝するものではなく、宗教書でもない。

同書によると、もともと科学というのは、神の創った世界を数量的に証明するものとして在ったのに、客観的で再現性のある運動法則によって、説明をつける形で発展した。

つまり、「創造主」である「神」は要らなくなってしまった。

しかし、デカルト以来の近代合理主義は、人間による方法論や判定を絶対視したことで、「神」は科学に都度都度混乱や試練を与えている、という内容である。

池内了氏は唯物論者だから、もちろんそこでいう「神」は、実在するものとして述べているわけではない。

物理学者の不十分さや、科学の試練を表現する比喩として使っているのだ。

つまり、人間なんて間違いうる存在のくせに、自分の知に対してそれを忘れて傲慢になると矛盾(同書ではパラドックスと表現)や動揺を「神」は与える。

人間が完全でない以上、「神」はこれからもしたたかにあらわれるだろう、と書かれている。

科学は発展するが絶対ではない。

相対的真理の長い系列にあることを池内了氏は述べている。

要素還元主義・形式論理学を超えた科学観を……

また、池内了氏は、あとがきにおいて、「物理学者だけでなく、科学者全体について現在の私がもっとも言いたかったこと」として結論を述べていまる。

科学者は、まだ部分しか知らないのに全体を知ったかのように思い込み、科学の力によってすべてが解決するかのようにふるまいがちであるからだ。しかし、科学によって得た知はあくまで部分であり、未知の領域は大きく広がっている。そこから、地球環境問題や生態系の多様性の危機のような、簡単には解決できない難問が生じてきたと言える。私たちがまだまだ無知であることを謙虚に学ぶためには、歴史を読み直すことが一番である。

環境問題や原発問題において、多くの科学者は既知から「いわれるほどの心配はない」と述べている。

過去の数値からいろいろ計算してそう回答しており、無意味なものではない。

しかし、池内了氏は「自然は複雑系」という根拠から、現在の科学のよって立つ「要素還元主義」の立場をとらない自称「へそまがり」である。

要するに、環境問題も多くの科学者とは見解を異にしている。

その理由は大きくはこう述べている。

1.物事の原因と結果の関係は非線形にある(小さなきっかけが思いもよらない大きな結果を招くことがある)

2.全体は部分の単純な総和ではなく、デカルト以来の要素還元主義では自然界の動きはとらえきれない

3.ひとつの現象はいくつもの要因で起こったり、現象の系(システム)に生じるゆらぎから新たな秩序を形成したりすることがあるが、現在の要素還元主義ではそれを同時に予測したり測定することができない

要するにこれは、哲学でいうと形式論理学ではなく、弁証法論理学に立脚したものの見方である。

池内了氏が正しいか、他の科学者が正しいか、それはいずれ明らかになるだろう。

話を冒頭に戻せば、今回の科学者の軍事研究への傾斜。

「神」が大きな鉄槌を下すような展開にならないことを願いたい。

物理学と神 (集英社新書)

物理学と神 (集英社新書)

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