福島、甲状腺がん増を原発事故の影響とする「過剰診断」

 

原発事故による放射能汚染
福島の原発事故以来、食材(穀類、野菜、魚)の汚染への懸念とともに、住民に対する差別的な色眼鏡が定着している感がある。つまり、原発事故による放射能汚染で、きっと甲状腺がんや白血病になるだろう、という偏見である。スケプティクスの立場からその問題に一言したい。

反原発、脱原発を標榜する人たちには2つの潮流がある。

脱原発を標榜する人たちには2つの潮流がある

その一方は、科学的根拠から、客観的に放射線汚染を判断しつつ、総合的に考えて再稼働はやめた方がいいという立場。

要するに、科学と技術の現状から回答を出すという立場である。

もう一方は、放射能・放射線は怖いという前提で、反対というより否定する立場。

つまり脱原発というよりも、その正体は反科学であり、かつ反社会的立場といっていい。

後者の中には、食品添加物、電磁波、水道水など、この世の中の叡智の、ありとあらゆるものについて頭から危険煽りをしている勢力もある。

もちろん、水にはトリハロメタン、大気にはアスベストなど、危険なものがあることは確かだが、それでただちに人が倒れていたら人類はとっくに絶滅しているわけで、通常の生活でそうしたリスクをどのくらいなら我慢できるか、という数値がある。

そうした検証も社会的なコンセンサスもなく、汚染レベルの程度を全く無視して、放射能はとにかく怖いと人々に不安を煽ることは、福島(の人々)に対する差別の風潮を作ることになる。

また、そうした人々は、科学的に判断する研究者に対し、「隠蔽工作を行っている」という論難・攻撃を行ってきた。

『美味しんぼ』の「鼻血騒動」によって、いよいよその2潮流の「溝」が公然とした感がある。

そうした人々は、福島の原発事故以来、病人が出た、調査で福島の人の数字が高くなったというと、すぐに原発事故に結びつけて大騒ぎする。

しかし、疫学調査に対する考察は科学的・懐疑的、すなわちスケプティクスな立場に立たなければならない。

要は「調べるから数字が出る」だけのこと!?

『日刊ゲンダイ』(2015年10月23日付)の連載「役に立つオモシロ医学論文」において、著者の青島周一氏(徳仁会 中野病院)は、福島県の甲状腺がん発症率増加という論文を読み解いている。

福島県が、日本の年間平均発症率よりも20~50倍甲状腺がん発症率高いという内容である。

福島、甲状腺がん増を原発事故の影響か

結論から述べると、専門家は、その論文をもって、「福島住民キケン」とはいえないと考えているという。

と、書くと、原発キケンキケン派は、「だったらどうして数字が20~50倍高く出るのか」と思うかもしれない。

青島周一氏は、スクリーニングを「すればするほど、甲状腺がんが見つかるから」と述べている。

もちろん、青島周一氏は、放射線が甲状腺がんのリスクファクターであることを否定しているわけではない。

ただし、その論文では、福島県南東部を基準として福島県内各地域での比較も行われているものの、リスクが統計的に有意な差は出ていないというのだ。

原発事故が、福島県北東部を中心に私たちの暮らしにリスクや制約をもたらしたことは事実である。

ただし、その具体的な結果について、この論文で結論は出せないという話である。

青島周一氏の連載を見ていこう。

福島の甲状腺がん増は
原発事故の影響か

「福島県の甲状腺がん発症率は日本の年間平均発症率よりも20~50倍高い」という衝撃的な論文が国際環境疫学会誌の2015年10月5日付に掲載されています。
 ご存じのように、4年前の東日本大震災による影響で、福島第1原子力発電所で放射性物質の放出を伴う事故が発生。福島県では、その後、18歳以下の住民を対象に甲状腺がんのスクリーニング(検診)が実施されています。
 論文はそのデータから得られた甲状腺がん発症率と、日本の年間平均発症率を比較したものです。この結果を見て、多くの方は原発事故による放射線で、子供の甲状腺がんが20~50倍も増えると衝撃を受けるかもしれません。
 しかし、「この論文だけで明確な結論を得ることは難しい」と専門家の多くは感じていると思います。
 なぜならば、スクリーニングをすればするほど、甲状腺がんが見つかるからです。
 実際、甲状腺がんの検診が熱心に行われてきた韓国では、その罹患率が、それほど検診が行われていない英国の約15倍といわれており、「見つけなくても問題ない、治療の必要のない甲状腺がんを過剰に診断しているのではないか」などと指摘されています。
 この論文でも、「スクリーニングによるバイアス」の存在は認めています。気になるのは「これだけの増加はバイアスだけでは説明できない」としながらも、その根拠を明確に示していないことです。
 放射線が甲状腺がんのリスクファクターであることは確かです。しかし、韓国の事例で示されたように、スクリーニングを実施した地域(福島県)での発症率と、スクリーニングをしていない地域(日本の年間平均)を含む発症率の比較は、過剰診断の影響を軽視できません。
 この論文では福島県南東部を基準とし、福島県内各地域での比較も行われていますが、その解析ではリスクは増加傾向にあるものの統計的に有意な差は出ていません。この論文結果は慎重に解釈せねばならないでしょう。

危険を明らかにするために、このスクリーニングをきっかけに、さらに調査を進めて、もう少し踏み込んだ考察ができるということだろう。

この時点で、またキケンキケンと騒ぐ「脱原発」は、科学的ではないということである。

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