カップ麺の容器、環境ホルモン説のスケプティクス(懐疑)

   2016/03/09

カップ麺を食べる
カップ麺(カップヌードル等)を食べると、環境ホルモンのせいで子どもができなくなる? 98年2月発行の日本子孫基金会報では、横浜国立大学環境科学研究センター・花井義道助手がカップ麺12品目に熱湯を入れたところ、全ての容器から「環境ホルモン」であるスチレンモノマーが1ー33ppbの溶出を検出と報じた。カップ麺の容器による環境ホルモン説である。

だが、それを主張する専門家も、溶出したものが「攪乱」するという結論には達していない。

今日はこの件について、スケプティクス(懐疑的批判的)な立場から考えてみたい。

東日本大震災で起こった買い占め・買い漁り。

それ自体がデマだという人もいるが、スーパーやコンビニなどの店頭から食品が消えたことは紛れもない事実であった。

たとえば、普段は棚一杯に並んでいるカップ麺が例外なく消えた。

あれ、今どうなっているのだろうか。

買った人はちゃんと食べているのだろうか。

何でもない時は、カップヌードルなどカップ麺(カップラーメン)のカップは、環境ホルモンウンヌンカンヌンなどといって敬遠していたのに、背に腹はかえられないということか。

要するに、カップ麺の環境ホルモン問題というのは、その程度のものだったのだろう。

環境ホルモンとは「内分泌攪乱化学物質」のこと

昨今、環境問題が論じられるようになり、「環境ホルモン」という言葉がしばしば取り沙汰される。

ホルモンといっても、内臓肉の「ホルモン焼き」のような食べ物の話ではない。

私たちの体内は、生理的な物質によって特定の組織や器官のはたらきを調節している。

たとえば、新陳代謝を促進する甲状腺ホルモンや、血糖値や水分代謝などに関わる副腎皮質ホルモンなどがそうである。

ところが、環境中の化学物質の中には、私たちの生体内にホルモンのような作用を起こしたり、逆に各ホルモンの働きを阻害したりするものがある。

それを、「内分泌攪乱化学物質」、いわゆる環境ホルモンと呼んでいる。

たとえば、PCBやダイオキシンも環境ホルモンの代表的な物質である。

環境ホルモンの害としてもっともよく取り沙汰されるのが、精子の数が減るというもの。

やれ、子供が作れなくなるとか、中には女性化するという危機感の煽り方もある。

そして、その象徴的なものが、今回思いっきり買いあさられたカップ麺の容器である。

ということは、カップ麺を食べると子どもが作れなくなる? という心配を私たちはしてしまう。

だとすればこれは大変なことだ。

カップラーメンといえば、スーパーの棚の一角を占める大衆食である。

1998年2月発行の日本子孫基金会報では、横浜国立大学環境科学研究センター・花井義道助手がカップ麺12品目に熱湯を入れたところ、全ての容器からスチレンモノマーが1ー33ppbの溶出を検出と報じた。

それは、WHOで発がん性が示唆されている物質である。

1998年5月に環境庁(現環境省)は、「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」なる報告を行ったた。

そこでは、「内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質」を67物質リストアップ。メディアで大々的に報じられたが、その中にはカップ麺の容器に使われる発泡スチロールとして、スチレンダイマー、スチレントリマーが含まれていた。

それに対して日本即席食品工業協会は同年5月、「人体に影響を及ぼさない微量のスチレンモノマーを、環境ホルモンの疑いのあるスチレンダイマー、スチレントリマーと誤認している」と、新聞の一面を使った意見広告を発表した。

業者側とすれば必死だろう。

すると翌月には、国立医薬品食品研究所・河村葉子食品添加物第三室長らが、国連大学のシンポジウムで、「有機溶媒を使うと、カップ麺容器から、スチレンダイマーとスチレントリマーが溶け出した」と反論した。

河村室長はすでに4月の時点で、「カップ麺容器から、スチレンダイマーとスチレントリマーが溶け出した」と発表。

東京新聞やスポーツニッポンで大々的に報じられていた。つまり、カップ麺環境ホルモン派の急先鋒だったわけだ。

すると、同工業協会も負けずに、スチレンダイマー、スチレントリマーについても、独自の調査結果、内分泌撹乱作用は認められないとの主張を行った。

真っ向からガチンコで衝突する両者。

ただし、河村室長も「溶出する」としているだけで、溶出したものが「攪乱」するという結論には達していない。

半年後に発表された厚生省(現厚生労働省)の「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会中間報告」(98年11月19日)によると、ポリスチレン製器具・容器等については、「現時点において、使用禁止等の措置を講ずる必要はない」とし、発泡スチロールは環境ホルモンのリストから外された。

06年には、東京都健康安全研究センターが、動物実験による生物への影響が確認されたことを発表したが、それは通常の10倍以上を摂取する実験によるもので、リアルな人へのリスクを判定するまでには至っていない。

時点で「現実的なリスクではない」

環境ホルモンの精子減少については、『環境と健康』(丸善)の中で、安井至氏が先生と学生の対話形式の文章で言及。

フタル酸エステルのジ2エチルヘキシルフタレート(DEHP)が、精子を作る元となるセルトリ細胞に脂肪が溜まるとされたことについて解説している。

「C先生 今回、この物質が問題になったのは、コンビニ弁当に、この物質が含まれていることが見つかったからだ。それは、塩ビの手袋を使って、箱詰めが行われていたから。特に、滅菌のためにエチルアルコールを手袋に吹き付けて、それで揚げ物などを取り扱うと、DEHPが揚げ物に付着する。…

 A君 そして、DEHPに対して、一日の許容摂取量が決まったのです。その値は、四〇~二四〇マイクログラム/キログラム/日という値です。この値の根拠は、セルトリ細胞に影響がでる濃度が実験的に求められているのですが、それに安全係数を考えて一〇〇分の一にしたものです。

 B君 一〇〇分の一という安全係数は非常に大きいと言える。なぜならば、われわれが日常的に食べている食品や飲んでいる飲料などでは、一〇〇もの安全係数は考慮されていないのが普通だからだ。DEHPも体内での分解は比較的早いので、蓄積性は考慮しなくても大丈夫」


現時点で安井至氏の結論は、現実的なリスクではないということだ。

たしかに、環境省がリストに挙げた物質のうち、人への環境ホルモン作用が確認されたものはひとつもない。

しかし、それは今の科学で示せるものはないということであり、汚染の影響を心配することがナンセンスということではない。

科学は相対的真理の長い系列にある。科学者は、そこを忘れてはならない。

環境庁は98年の時点で、全国130地点の河川、湖沼、地下水、海水のうち、70%以上の地点で環境ホルモンが検出されていることを報告している。

国が生態系への影響を今後も追跡調査し、必要に応じて環境汚染防止対策をとることは人間の安全を守るためにも当然のことである。

と同時に、リスクは侮らず極度に恐れず、冷静に相対化することも重要である。

カップヌードルなどカップ麺に依存する食生活は、カリウムや鉄、亜鉛等が不足する一方でナトリウムなどの過剰摂取が心配される。

環境ホルモンの影響に関係なく、それが精子の数を含めて体のコンディションを崩す可能性はある。

「精子が減少した」からといって、それをすぐに「環境ホルモン」にのみ結びつけてしまうことで、カップ麺依存の生活そのものを見直すというものの見方ができなくなってしまうことは、それこそ非合理な思考というものである。

『環境ホルモン・何がどこまでわかったか』(講談社)で、著者の読売新聞科学部・小出重幸さんは、こう言及している。

「これを食べ続けた場合、麺やスープに含まれる脂質、食塩、添加物などからもたらされるリスクと、ポリスチレン容器の溶出物のリスクは、どちらが健康への影響が大きいのか……。

実は環境ホルモンを考える上で、この『リスク評価』という考え方が欠かせないのだが、こうした視点からの議論は、なかなかマスコミの報道には現れなかった」

見かけの数字だけで「安心・安全」と決めつけるのではなく、さりとてナイーブに「危ない」と恐れるのでもなく、「合理的に恐れる」ことが必要ということ。

実はこれは、現在問題になっている放射性物質問題にもいえることではないだろうか。

健康情報・本当の話

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  • 作者: 草野 直樹
  • 出版社/メーカー: 楽工社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本

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